歌を詠み能を愛して八十余年 強くて明晰でしかもチャーミング こんな風に生きられたなら 幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々

幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々

新着情報

イントロダクション

本作は93歳から94歳にかけて歌人、馬場あき子の1年を見つめたものである。

冬 全歌集が出版されたばかりの馬場を訪ねた。コロナ禍で歌人の生活も大きく変わっている。彼女が長年選者を担当している朝日新聞の「朝日歌壇」。それまでは4人の選者が新聞社で顔を合わせ、その場で選歌を行っていたが、感染拡大にともなって、自宅に送られた投稿葉書を二日かけて吟味するようになった。
1回の選歌に応募葉書は2千通から2千5百通。一瞬で良否を見極める姿には、曰く言いがたい迫力がある。

一方で、馬場が主催する短歌結社、「かりんの会」も、対面の交流などが困難となり、毎月発行している「かりん」編集会議は馬場の自宅で、オンラインとなった。状況が変わっても馬場が短歌に寄せる思いは強く、また鋭い。パソコンに向かって意見を放つ姿には、老いの影など、微塵も感じられない。

能への興味は尽きることがなく、毎月3回から4回は能楽堂に足を運び、観能を楽しんでいた。
歌と能…馬場においては不即不離の関係にある二つの文化について、自身が語る言葉は重い。

※羽衣
シテ方喜多流能楽師 友枝雄人


また、1月には短歌雑誌「歌壇」のインタビューを受ける機会があった。インタビュアーは東大副学長であり、馬場の弟子でもある坂井修一。リラックスした雰囲気のインタビューにはざっくばらんな馬場の性格が伺えた。それもまた、年齢を重ねてきたがゆえの、自在の境地だろうか

春 馬場は、自らも新作能を書き下ろしている。そのひとつ、「利休」の上演が迫ると、リハーサルに当たる申し合わせが行われ、馬場も立ち会った。能楽師の動きに細やかなリクエストを求める姿は印象的だ。本番が行われた新潟では、自ら解説を引き受け、闊達な喋りで観客を魅了。優れたエンターテイナーでもある彼女の一面を見ることになった。

※利休
シテ方観世流能楽師  片山九郎右衛門



馬場の地元である川崎では、能と狂言それぞれの人間国宝を招いての舞台があり、終演後、馬場は二人を相手に舞台上で鼎談も披露。演者からの信頼の厚さを垣間見ることができた。

※隅田川 麻生 鼎談
シテ方喜多流  友枝昭世(人間国宝)  狂言方大蔵流  山本東次郎(人間国宝)


5月には感染者数の減少を見て、「朝日歌壇」の選歌も従来のスタイルに戻った。錚々たる重鎮が集う選歌の場でも、最年長の馬場は、どこか堂々としていた。

夏 6月、兵庫県小野市で開かれた小野市詩歌文学賞表彰式、小野市短歌フォーラムに出席。馬場は、長年にわたり務めてきた選者も、この年を限りに引退と決めていた。ステージでは、これまでの歴史を振り返るスライドショーもあり、馬場がいかに愛されてきたかが伝わってくる。前日には、小野市に残る歴史ある料亭で、フォーラムにも出席する小説家・辻原登、歌人・永田和宏、俳人・宇多喜代子の3人と、連歌を楽しむ様子にもカメラを向けた。

※小野市詩歌文学賞
平成21年(2009)より日本人の感性の原型である詩歌の一層の発展を願い、前年中に刊行された短歌・俳句に関する文芸作品の中から最も優れたものを顕彰、馬場は第1回から選考委員を務めている。

※連歌
複数人が集まってリレー形式で和歌を詠む、日本に古くからある詩歌の様式のひとつ。
参加者
辻原登(作家)日本藝術院会員。1990年「村の名前」で芥川賞受賞他受賞多数。
宇多喜代子(俳人)現代俳句協会特別顧問、日本芸術院会員、文化功労者。
永田和宏(歌人) 日本の歌人・細胞生物学者。京都大学名誉教授。
馬場あき子(歌人)

秋 この1年、コロナ禍という特殊な状況の下でも、旺盛に短歌を詠みつづけた馬場あき子。
歌の創作を含め、エッセイ執筆などの様子は撮影不可と言い続けてきた馬場が、初めて原稿に向かう姿を見せてくれた。歌詠みの初心について綴った言葉には、こんな思いが込められていた。
歳を重ねることは完成への道ではない。
巡り来る春ごとに、あらたな心で歌に向かえ…と。

秋

馬場あき子

昭和3年生まれ。
戦争中は軍需工場に学徒動員され、空襲で家を焼け出される。
昭和22年、短歌結社「まひる野」に入会し、本格的に短歌の道へ。
また、時を同じくして能の喜多流宗家にも入門。
教員生活を送りながら、夫の岩田正とともに短歌結社「かりん」を主催。
61年「葡萄唐草」の迢空(ちょうくう)賞受賞をはじめとして、数多くの短歌にまつわる賞を受ける。
平成29年には夫・岩田正が急逝。
平成31年、文化功労者に選ばれる。
『朝日新聞』歌壇選者、NHK市民大学などラジオ・テレビでも活躍。古典や能への造詣を背景に艶麗な歌境を提示。評論に「鬼の研究」などがある。

馬場あき子

國村隼 インタビュー

國村隼

語り 國村隼

81年、井筒和幸監督『ガキ帝国』で映画デビュー。89年、『ブラック・レイン』に出演以降、『キル・ビル vol.1』(03)、『MINAMATA ーミナマター』(21)、『KATE/ケイト』(21)など海外作品にも多数出演。97年、『萌の朱雀』で映画初主演。韓国映画『哭声/コクソン』(16)では第37回青龍映画賞の男優助演賞、人気スター賞を W受賞すると共に、2016 APAN STAR AWARDS特別俳優賞を受賞。近年の主な映画出演作に『かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-』(18)、『アルキメデスの大戦』(19)、『ステップ』(20)、『騙し絵の牙』(21)、『映画 太陽の子』(21)、『ちょっと思い出しただけ』(22)など。

スタッフ

音楽 渡辺俊幸

映画、テレビドラマ、アニメーションなどから純音楽まで作曲活動は多岐にわたる。代表作にNHK大河ドラマ「利家とまつ」、「毛利元就」、NHKドラマ「大地の子」、NHK 連続テレビ小説「おひさま」、「どんど晴れ」、「かりん」、「ノンちゃんの夢」、 映画「平成モスラシリーズ」、「UDON」、テレビアニメ「宇宙兄弟」、「新幹線変形ロボ シンカリオン 」、オペラ「禅〜ZEN」他がある。2005年愛知万博の開会式の音楽監督を担当。テレビドラマ「リング〜最終章〜」で第20回ザ・テレビジョン ドラマアカデミー賞 劇中音楽賞を受賞。平原綾香「おひさま~大切なあなたへ」で第53回日本レコード大賞編曲賞を受賞。洗足学園音楽大学客員教授。日本音楽著作権協会理事。

渡辺俊幸

監督 田代裕

1956年、東京文京区生まれ。慶應義塾大学文学部卒。在学中に発表した16mm作品「さよなら17歳」は、当時「ぴあ」と双璧をなしていた情報誌「シティロード」誌上で1979年度・読者が選ぶ自主映画のベストワン。大学卒業後はテレビの世界で13年にわたりサラリーマン・ディレクターを務め、構成作家に転じて独立し現在に至る。
ザ・ノンフィクション「マリアのニューヨーク」でATPドキュメンタリー最優秀賞、ノンフィクションW「映画で国境を越える日」で放送文化大賞、BS-TBS「通信簿の少女」で文化庁芸術祭優秀賞、その他ギャラクシー奨励賞など。

田代裕

コメント

劇場情報

馬場あき子

語り:國村隼 音楽:渡辺俊幸 監督:田代裕

題字:金澤翔子 音響効果:中嶋尊史 
EED:池田聡 MA:富永憲一
宣伝協力:木村洋子 
宣伝デザイン:池田樂水、齊藤賢太郎 
WEB製作:kumayan
プロデューサー:森川健一 
製作 配給 宣伝:ヒッチハイク
助成:文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
2023年/日本/113分/ステレオ/16:9